量子化学シミュレーション
Quantum Chemistry Simulations
分子は,その構造がまったく変化せず止まっているものではない。時間とともに原子間距離や角度が変化し,分子はたえまなく振動・回転している。また,反応の進行とともに分子の種類が
変化し,構造もそれにともなって変化する。さらに,温度が反応速度に影響を与える。化学反応を理解するためには,また,ある温度における分子集積体の構造や物性を知るためには,
ある温度のもとで,分子が時間とともにどのように変化するのかを知る必要がある。
分子の構造やエネルギー,また各原子に働く力は,量子化学の手法に基づいて計算で求めることができる。量子化学の手法に基づいて,ある時間における分子の構造(原子の位置)およ
び各原子間に働く力を計算し,その次の時間における分子の構造を,Newtonの運動方程式を
解くことによって求めていく。これはBorn-Oppenheimer
近似に基づいた手法である。これを「量子化学シミュレーション」とよぶことにする。
コンピュータの能力が大きくなったので,各時間における分子のエネルギーや力は,信頼性の高い非経験的分子軌道法(ab initio MO法)を用いて求めながら,分子動力学
(MD)法によって系の時間変化を求めることができるようになってきた。これを ab initio MD simulation と名づけた。この手法を用いることによって,化学反応がある温度でどのように進行していくのか,等々を明らかにすることができる。